パワーリフティングアジア王者にしてラーメン店&ジムのオーナー:笹倉伯文さん



加東市で活躍する「ひと」紹介コーナー! 第3回目のご登場は、加東市下滝野でラーメン店「風神ラーメン」とトレーニングジム「雷神ファクトリー」を経営する笹倉伯文さん。

パワーリフティングでアジア王者に輝いた経験をもつ笹倉さんの夢は、「加東市でパワーリフティングの世界大会を開くこと」。実現に向けた活動の一環で「トレーニングでまちづくり」と題したイベントを開催し、地元加東市の活性化に力を注いでいます。

「加東市にこんな面白い人がいたのか!」 そう思わす叫びたくなる気持ちを押さえながら、笹倉さんにパワーリフティングを始めた経緯、地域活動の思いについて伺ってきました(文・写真/スタブロブックス)

男たるもの、一番をめざす

高橋 笹倉さんのご経歴を拝見すると幅が広すぎて、一度にまとめきれそうにありません。本日はパワーリフティングとまちづくりの2つに絞ってお話を聞かせてください。

笹倉 分かりました。よろしくお願いします。

高橋 さっそくですが、笹倉さんがパワーリフティング()を始めたきっかけを教えてもらってよろしいですか?

笹倉 1995年1月18日、私が高校1年生のときに友人に誘われて近所にあったジム(社パワークラブ)に通い始めました。阪神・淡路大震災の翌日だったのでよく覚えています。

ラーメン店ではバンダナがトレードマークの笹倉さん


高橋 高校生だと部活に入るのが一般的ですよね。なぜジムに?


笹倉 異端なんです(笑)。男として生きてきたからには何かの世界で一番になりたい、そう思って。

高橋 男たるもの、一番をめざす。かっこいいです。しかも実績が有言実行を物語っています。ジムに通い始めた2年後の1997年に兵庫県記録を更新し、2001年にはジュニア日本記録樹立。2010年に全日本選手権で優勝(男子60キロ級)し、翌年の2011年にはアジア選手権で日本記録を樹立し優勝(男子一般59キロ級)されています。

笹倉 子どもの頃から体育の成績が良かったわけでもないし、パワーの才能はないと思ってるんです。実際、全日本で優勝するまでに15年もかかっていますしね。一番になる目標に向かってコツコツ経験を積み上げた結果です。今は後進の指導にも力を入れていて、雷神ファクトリー所属の日本チャンピオンも生まれています。

※バーベルを担いで立ち上がるスクワット、胸の上でバーベルを挙げるベンチプレス、床に置いたバーベルを胸まで引き挙げるデッドリフトの3種目の合計重量で競う競技。(ちなみに、ウエイトリフティングは地面に置いたバーベルを頭上まで持ち挙げるスナッチと、バーベルを肩まで引き挙げ、その後頭上に持ち挙げるクリーン&ジャークという2種目の合計重量で競う競技。こちらはオリンピックの正式種目)

肩書きが物語る思いの強さ

高橋 こんなすごい人が加東市にいらっしゃったとは。その魅力に拍車をかけているのが笹倉さんの活動の幅広さです。名刺を拝見すると、加東市パワーリフティング協会の代表でありながら、近畿中国森林管理局・国有林モニター、兵庫県民局・北播磨地域ビジョン委員、小野市好古館・文化財調査ボランティアの肩書もあります。

笹倉 名刺には載っていませんが、加東市体育協会の常任理事のほか、加東市の図書館サポーターも務めています。

高橋 図書館まで! そもそもでいうと、本業は風神ラーメンと雷神ファクトリーの経営ですよね。

 

トレーニング器具が並ぶ雷神ファクトリー。50人の会員がいる


笹倉 一つひとつの活動には意味があるのですが、私のやっていることを説明するのがとにかく難しくて。おかしな人と思われているかもしれません。


高橋 いえいえ。微力ながら、伝えるお手伝いができればと思います。

「トレーニングでまちづくり」とは?

高橋 さて、本日いちばん伺いたいと思っていたのは、「トレーニングでまちづくり」についてです。トレーニングとまちづくりを結びつけようと思われた理由を教えてもらっていいですか?

笹倉 スポーツという面での健康増進はもちろん、トレーニングには経済や地域コミュニティなどの枠組みを越えられる可能性があり、それはひいてはまちづくりの課題解決につながると思っているんです。……といっても分かりにくいですね。具体例を挙げると、トレーニングでまちづくりの一環で、通常は体育館内でおこなわれるパワーリフティングを地元のオープンスペースで開催し、力自慢の人たちに参加してもらうスポーツ祭「ばかぢから」を2013年から企画・運営してきました。

高橋 「ばかぢから」――抜群のネーミングセンスですね。トレーニングとまちづくりを結びつけるために、具体的にどんなことをするのですか?

笹倉 力持ちを決めるパワーリフティング大会がメインですが、家族で来てもらって一日中遊んでもらえるような工夫を凝らしています。たとえば子どもがダンベルを挙げたら金魚すくい券を発行したり、お父さんやお母さんを対象に筋力測定会をおこなったり、気軽にトレーニングに触れられる機会をつくっています。

高橋 家族で楽しめる点が素晴らしいです。どんな場所で開催されてきたのでしょう?

笹倉 初年度は雷神ファクトリーでおこない、翌年からは一般の方がもっと気軽に参加しやすいよう、加東市の商業施設・やしろショッピングパークBioを会場にしてきました。さらに2017年には、〝家族で行ってみたいイベント〟をテーマに加東市で知名度ナンバーワンの東条湖おもちゃ王国で「ばかぢから」を開催しました。

高橋 それはすごい。

笹倉 遊園地での開催は前例がなく、思うように企画が進まなくて大変でしたが、結果的に500人の集客を実現する大成功イベントになりました。

高橋 500人! トレーニングで人を呼べることを自ら示したわけですね。

 

イベントの集合写真。中央には加東市長の姿も(写真:笹倉さん提供)


笹倉 イベント内容を充実させたことで興味をもってもらえたと思います。具体的には、メインのパワーリフティング大会のほか、太鼓演奏やよさこい演舞、和菓子販売、筋力測定会、兵庫教育大学の学生によるダンスパフォーマンス、地元高校生によるまちづくり観光案内、地元小学生デザインのメディカルシューズ販売、子どもダンベルチャレンジ(お菓子or風船プレゼント)などおこないました。


高橋 反響も大きかったのでは?

笹倉 加東市内でのパワーリフティングの認知度が一気に高まったと感じます。加東市パワーリフティング協会自体も加東市体育協会に認められて新規加盟・加盟登録されましたし、何よりアスリートが各分野との接着剤のような効果を生み、世代間交流やスポーツと文化・産業との交流をスムーズにおこなえることが証明できました。

アスリートを地域資源とみなし、まちづくりの核とする

高橋 アスリートが地域の接着剤、まさに結節点となって活躍できるモデルを示したわけですね。

笹倉 地方を拠点にするアスリートは移動や経済的な面で地の不利の影響を受けやすいですが、一方で地元企業の応援や行政支援を得やすく、企画次第では地域の核として活動できるとの確信があります。「アスリートを地域資源」ととらえることで、アスリートが核となって地域を活性化させることは十分可能です。

高橋 アスリートを地域資源とみなし、まちづくりの核とする。まさに「トレーニングでまちづくり」ですね。

薪割りトレーニングという新たな試み

笹倉 コロナの影響でイベントを開きにくい状況ですが、幸いオープンスペースでの運営ノウハウを積み上げてきました。2021年にはやしろ鴨川の郷キャンプ場で「ばかぢから」を開催し、200人の集客につながりました。

 

スクワットにチャレンジする笹倉さん(写真:笹倉さん提供)


高橋 オープンスペースにこだわってきたことが、奇しくも時代にマッチしたわけですね。


笹倉 時代の要請という意味でいうと、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)への取り組みが求められるなか、2021年の「ばかぢから」では森林資源を活用した「薪割りトレーニング」という新たな取り組みにもチャレンジしました。地域資源であるアスリートと森林資源を薪割りトレーニングで結びつけた事例としてNHKから取材を受けるなど、少しずつ認知してもらっています。

高橋 ますます活躍の幅が広がりますね。

笹倉 ますます理解されなくなっていかないか心配ですが……。

高橋 ぜひそのまま突き進んでください。最後に、今後の展望を聞かせてもらっていいですか?

加東市に世界大会を誘致したい

笹倉 「パワーリフティング、力持ちといえば加東市」と言われるよう競技を地域に根づかせていきたいですね。そして加東市でパワーリフティングの全国大会や世界大会を開きたい。「トレーニングでまちづくり」を通じて地元を盛り上げる活動に今後も取り組んでいきます。

 

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